20世紀最大の魔術師アレイスター・クロウリーが生んだ「トート・タロット」に挑む

文=ヘイズ中村

詳細不明の高度な「魔術書」

 

「トート・タロット」は、20世紀最大の魔術師とも呼ばれた不世出の天才、アレイスター・クロウリーの指導のもと、フリーダ・ハリスが1938年から1943年の約5年という月日をかけて制作した、壮大なタロットである。

だが、そのあまりにも美しく精緻な図柄は、当時の印刷技術では再現できず、完成はしたものの、出版・販売ができないまま25年以上も秘蔵されていた。

 

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その後、私家版としてモノクロ印刷で出版されたり、粗悪なカラー印刷での少数出版などが行われたりしたが、できあがったカードはどれも粗雑で、使い物にはならなかったという。1979年になって、ようやく使用に耐える品質でのフルカラー印刷が可能となり、商業出版が開始された。

 

精密に計算された幾何学的で独特な絵柄、華麗な色使い、そして首尾一貫した魔術哲学に貫かれているということで、史上最高のタロットだとする声も高い。そしてもちろん、その評判にひかれて、タロット初心者から上級者、そしてコレクターにいたるまで、非常に多くのタロット愛好家が手に取るカードとなり、発売以来、タロットカードのベストセラーの地位に君臨しつづけているのである。

 

トート・タロットの実物を初めて手に取った人の反応はさまざまだ。その美麗な図柄に見とれる人、一般的なタロットとの違いに違和感を覚える人。さまざまな伝説に彩られたこのタロットをマスターすれば、神秘的な力が身につくと信じて、胸をときめかせる人も少なくない。白状すれば、筆者もかつてはそのひとりだった。

 

そして、トート・タロットを手にしたほぼすべての人に共通する反応が、ひとつある。それは、「いったいどうやって使い方を学べばいいのだ?」という当惑だろう。

カードに小さな解説書がついてくることもあるが、本当に最小限の情報しか記載されていない。その解説書だけで使いこなせるようになるのは難しいうえ、読めば読むほど膨大な学習が必要であり、しかもそれをどこから始めればよいのかさえ見当がつかないという実感が増すばかりなのだ。

 

アレイスター・クロウリー。
アレイスター・クロウリー。

 

参考資料として、作者クロウリー自身が著した『トートの書』が存在してはいる。本来ならば、作者自身が書いた解説書ほど、心強いタロットの参考書はないものだ。

 

だが、『トートの書』には非常に難解な魔術用語や神名などが、ほとんど何の説明もなく所狭しと詰め込まれているうえ、一般的なタロット解説書にあるような、わかりやすい占い方やカードの意味さえ載っていない。そのため、しっかりとした基礎知識がないかぎり、『トートの書』を片手にトート・タロットを使おうとしても、ますます何が何だかわからなくなってしまうとい

うのが正直なところだろう。

 

たとえるなら、トート・タロットを入手した人は、見たこともない絢爛豪華なフルコース・ディナーのテーブルについているのに、どこから食べ始めたらよいのかわからないような状態なのだ。美しいカードの正しい使い方や、深遠な意味を理解して、神秘的な知識を貪欲に吸収し、満腹になるまで堪能したい!

 

という強い欲求にさいなまれているというのに、目の前の料理を切り分けるナイフやフォークがどこにも見当たらないばかりか、おいしそうなことはわかっても、実際のところ何の料理なのか見当もつかないので怖くて食べられない、と途方に暮れるばかりである。

 

そのため、多くの人が、カードは買ったものの使わずにしまい込むか、ときどき取りだして眺めるだけのコレクターズ・アイテムにしてしまうことになる。

逆に、知識的な飢餓状態に耐えることができずに、こんなに資料がそろっていないのは、このタロットには学習が不要だからだ、自分の感性で自由に使っていけばよいのだ! という、ぶっ飛んだ発想にいきつく人も少なくい。実際、市場にはこうした自由な発想、独自の発想にもとづいて著されたトート・タロットの解説書もけっこう出回っているため、そのように考える人が出てくるのも仕方がないのかもしれないが……。

 

確かに、理論は無視して感性だけでもなんとか使用できるのが、タロット・カードの利点のひとつではある。しかし、そうした感性重視、理論無視の立場を取ると、自分が気になった情報だけを取捨選択するようにもなりやすい。

さらに、感性だけを重んじると、どうしても刺激が強いセンセーショナルなエピソードに反応しやすくなるものだ。そのため「トートは黒魔術のタロットだから、注意して使わないと自分も呪われる」だとか、「作者のクロウリーは、性魔術ばかりしていた変態なので、その理論を学ぶと自分もそうした魔術狂になる」などといった誤情報にも振り回されやすくなる。

 

結果的に、巷ではいまだにトート・タロットに関する無用な恐怖感や、誤った思い込みがまことしやかに伝播されつづけ、正しい情報が埋もれてしまいがちなのが実状だ。

 

クロウリーはスキャンダラスな人物ではあったが、彼の魔術哲学そのものは、長年の西洋神秘学伝統の研究に裏打ちされた精妙なものだ。そして彼は生涯をかけて習得した知識を、このタロットにすべて投入した。そのため、トート・タロットは西洋神秘学の集大成ともいえるカードになっているのである。

 

つまり、たんなるタロットという単品料理ではなく、これを学べば、西洋神秘学の全貌も理解できるほど栄養満点のフルコース料理なのだ。だが、あまりにも皿数が多いため、多くの人は自分が消化しやすそうな部分、おいしそうに見えるエキセントリックな部分だけをつまみ食いしている状態だ、と考えるとわかりやすいのではないだろうか。

 

別の角度から見れば、理論を無視して感性だけで読み解こうとするのは、せっかくのフルコースをファスト・フードのように取り扱ってしまうに等しいともいえるだろう。これではあまりにももったいない!

 

では、このボリュームのあるフルコースに、消化不良を起こさずに挑戦するにはどうしたらよいのだろうか。当然すぎる答えかもしれないが、好き嫌いをせず、ひと皿ずつゆっくりと、ということしか手段はない。地道に学ぶしかないのである。

 

本書は、そのように辛抱強くトート・タロットに取り組もうと考えている人を対象に書かれた。トート・タロット本来の意図をできるだけ詳しく解説する本であり、制作者のアレイスター・クロウリーがこのカードに込めた象徴の意味や、その根拠などをできるだけわかりやすく説明し、さらなる学習への道を示すように構成してある。

 

西洋神秘学は、その学習に一生を費やしても学びきれないほど膨大な学問であるが、少なくともこの書籍を読了したころには、次にどの扉をたたけばよいのかという見当はつくはずだ。

 

もちろん、カード全体の構成から、個々のカードの象徴、占いに際しての意味や解釈方法などもしっかり記述してあるので、まずはカードの正しい意味が知りたいという人にも満足してもらえることだろう。このような方々は、最初から順番に読み進めてほしい。トート特有の用語などに戸惑ったら、第3章「トート・タロットの背景」を参照していただければ疑問は解消するだろう。

 

トート・タロットを用いた特別な占い方法も詳しく解説してある。意味はある程度わかっていて、より専門的な占法を極めたいならば、第2章「トート・タロットによる占いの技法」から読んでいただいてもよいだろう。

 

そして、トート・タロットの深遠な哲学は前出の第3章に、魔術的な使用法などは第4章「スクライングとパス・ワーキング」にまとめた。哲学的な部分により興味がある読者の方は、そちらから探求を始めていただくことも可能だ。

 

最後に。この本は、筆者独自の解釈は極力入れずに、クロウリーやハリスの意図を平易に説明することを主な目的としている。

 

アレイスター・クロウリー。
アレイスター・クロウリー。

 

ただ、じつは作者のクロウリー自身が、トート・タロットを占いに用いていなかったという大きな問題点がある。彼の死去は1947年、カードの出版より32年も前のことだ。そのため、実際にトート・タロットで占いを行うと、クロウリーの説明だけでは不足する点や矛盾点がかなり出てきてしまう。さらに、基礎的な知識の説明にも欠けているところが多い。

 

このような不明点は、筆者自身の研究によって補うしかなく、補った点については、筆者の意見だとわかるような書き方を心がけたつもりだ。筆者の解釈は、クロウリーの意図とは無関係であり、かつ、それが唯一の正しい解釈だと主張するつもりもない。また、象徴などの説明についても、よりわかりやすくするために、あえて日本的なたとえをした箇所もある。こうした部分も、学習のヒント、占いをする際のヒントにしていただければ幸いである。

 

「決定版 トート・タロット入門」より。
「決定版 トート・タロット入門」より。

 

文=ヘイズ中村

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