
トランスヒューマニズムとAI超人待望論/AI超人大予言
文=宇佐和通
大統領選に立候補した超人思想政党
科学技術の力によって人間の精神的・肉体的向上を目指すトランスヒューマニズムという思想がある。それは機械との融合もありうる、いわば超人化思想だ。SF小説や夢想のように思われるかもしれないが、現在の人工知能、AIの進化を考えると、現実の地続きとなった構想なのだ。
その現実への具体的な一歩は、昨年末のアメリカ大統領選挙でも踏み出されていた。
大方の予想を裏切るかたちでドナルド・トランプ候補の勝利に終わった2016年アメリカ大統領選。そのトランプ候補も、出馬表明の時点では30人以上いた泡沫候補のひとりという扱いだった。最終的にはトランプVSクリントンという図式に落ち着いたわけだが、その陰にありながら独特の存在感を示した候補がいたことをご存じだろうか? その人物の名は、ゾルタン・イシュトヴァン。今回は、トランスヒューマニスト党の党首という立場で立候補した。

彼らの主張であるトランスヒューマニズムという言葉の辞書的な意味を記しておこう。
「超人間主義。科学技術の力によって人間の精神的・肉体的能力を増強し、けが、病気、老化などの人間にとって不必要で望ましくない状態を克服しようとするもの」(『英辞郎on the WEB Pro』より)
実は、超人間主義という言葉こそが、これから先の時代の人類のあり方を決めるほどのインパクトを秘めている。辞書的な定義だけでは具体的なイメージが湧いてこないかもしれない。そこで、2016年2月24日付の『ハフィントン・ポスト』アメリカ版に掲載されたインタビュー記事からイシュトヴァン氏の言葉を紹介しておきたい。
「われわれは今後100年間でロボットに統治されることになります。ただ、本当の問題となるのは、ロボット統治時代のあとに来るものです。それは知性を宿す系統立ったエネルギーでしょうか? まだわかりません。ただ、ロボットが人間よりもうまく世界を導いていけることは確かでしょう」
ショッキングな物言いだ。そして、きわめて冷静なトーンでインタビューに答えるイシュトヴァン氏が、AIと人間の未来を視野に入れた具体的なロードマップを思い描いていることは明らかだ。
「AIが人類の脅威となることは間違いありません。だからといって、今すぐAI関連の投資を凍結したり、AIに対する概念を変えたりするのは間違いです。覚えておくべきなのは、人間にとってAI分野は完全に未知の領域であるという事実です。原爆開発への姿勢と同じく、きわめて慎重にあたっていかなければなりません。最終的には人類に恩恵をもたらしてくれるものとなるはずです」
トランスヒューマニズムとは、テクノロジーの使用を通じた人間の進化を目指す文化的・知的運動を意味する。中核概念のひとつとして据えられているのが、寿命を延ばす技術だ。遺伝子工学やナノテクノロジー、クローニングなどの最先端技術を用いれば、永遠の生命を実現することも可能かもしれない。さらには、身体的・知的・心理的可能性を最大限にまで追求するための方法論でもある。
2045年に訪れるといわれているシンギュラリティ(技術的特異点)――今のペースのままでコンピューター技術が進化を続けると、人類の知能を超えるAIが完成するというタイミング――は、トランスヒューマニズムによって確実に加速している。
トランスヒューマニズムとは何か? これから先の時代、この質問のニュアンスは「人間であるとはどういうことか」という響きに変わっていくはずだ。
(「ムー」2017年6月号より抜粋)
文=宇佐和通
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