エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

 「キューピッドさん」の謎

当時の「脱法コックリさん」は、僕が覚えているものだけでも「キューピッドさん」「エンゼルさん」「ラブさま」などなど、無数のバリエーションがあったが、なかでも最初に流行した「キューピッドさん」は「脱法コックリさん」の元祖であり、代名詞的存在だ。

で、僕はこの「キューピッドさん」について、以前から非常に気になっていることがある。僕が記憶している「キューピッドさん」と、現在語り継がれている「キューピッドさん」は、どうもまったく別物のような気がするのだ。

まぁ、小学生時代の女子たちのカルチャーなどは男子には完全に謎で、彼女たちの間で次々に勃発する各種ブーム、たとえば「匂い玉」「リリアン」「紙せっけん」「香りつきティッシュ」……などなども、横目では見ていたものの、なにがおもしろいのかさっぱりわからなかったし、彼女たちがそれらをどのように楽しんでいるのかも知らなかった。興味もないのでわざわざ聞いてみることもなかったし、考えてみれば女子文化というものは、同世代の男子にも完全なブラックボックスだ。なので、「キューピッドさん」に関する僕の記憶などもまったく曖昧ではあるのだが……。

現在ネット上などで継承されている「キューピッドさん」は、ほぼ「コックリさん」と同じ「文字盤」を使用する、ということになっている。鳥居の代わりにハートの絵(もしくは矢が刺さったハート)を描き、「はい/いいえ」の表記を「Yes/No」に変えただけだ。やはりコインを使うか、もしくは二人で握った鉛筆で文字を追っていく。

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現在ネット上などで解説されている「キューピッドさん」は、上記のような「文字盤」を使用することになっている。ほぼ「コックリさん」と同様のフォーマットだ。また、大きなハートを描き、その内部に文字盤を書き込むパターンもある。

しかし、ウチのクラスの女子たちが夢中になっていた「キューピッドさん」は、これとはまったく違っていたはずなのだ。いわゆる「文字盤」に類するものは使用しない。赤鉛筆で大きなハートをひとつだけ描いた紙を用意し、その上に二人で1本の鉛筆(色鉛筆やマーカーなどを使うこともあった)を握って身構え、なにやら呪文を唱えた後、ハートの絵を鉛筆でひたすら何度も何度もなぞっていく。どういうルールに従っていたのかはさっぱりわからないし、文字をいっさい使わず、ただひたすらハートを重ね描きしていくことで、なにをどうやって占っていたのかは知る由もないが、ときどき「憑依」が起こったことだけはよく覚えている。といっても、あくまで本人たちが「憑いた、憑いた!」と騒いでいただけなのだが。

「憑依」がはじまると、鉛筆を握った二人の腕の動きが徐々に早くなり、そのうちにメチャメチャな勢いでハートの絵の上に鉛筆を走らせ、しまいには紙の上がグシャグシャになって破けたりもするのだが、それでも彼女たちはやめない、というか、やめられないらしいのだ。で、「止まらないっ! 止まらないよーっ!」などと悲痛な声で助けを求めたりするのである。すると「識者」みたいな立場の女の子(オカルトマスター的存在)が慌ててやってきて、「大丈夫! 落ち着いて! 鉛筆は離しちゃダメよ!」などと言いながら動き続ける二人の手をギュッと握り、「キューピッドさま、お帰りください、どうかお帰りください…」などと何度も唱えつつ、二人の腕の「暴走」を止めるのである。

もちろん僕ら男子は、こうしたしょーもない茶番劇を冷たく眺めながら、「バカか、あいつら!」などと笑っていたのは言うまでもない。

 

以前にも、この記憶のなかの「キューピッドさん」について原稿を書こうとしたことがあったのだが、現在一般的にいわれている「キューピッドさん」とはあまりにも内容が違っているので、もしかしたらウチのクラスだけで流行した超ローカルな占いだったのか? ……とも考えて断念した。しかし先ごろ、この儀式についての長年の謎がようやく解明されたのだ(まぁ、解明されたところでなんのメリットもないんだけど)。

次回は、この「止まらないよーっ!」の儀式はいったいなんだったのか、さらには当時の女子たちが夢中になった各種「脱法コックリさん」について、主要なものを具体的に紹介しながら回顧していきたい。

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

 

文=初見健一

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