誘う首吊りの怪、再び/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 連載第58回は、京都取材で補遺々々した「首吊らせ」の怪たちです。

 

トイレ中の誘いには要注意

以前、【クビツリ神さん】【サソイガミ】【誘い神】といった、人に首を吊らせようとする、たいへんイヤな妖怪をご紹介しました。(こちら

人に首を吊らせるなんてロクなものではありませんので、もう二度と会いたくはなかったのですが、今回の京都取材でも「首吊らせ」の怪たちと出会ってまいりました。

 

「理不尽」「自業自得」「助け合いは大切」とさまざまな例があります。

まずは、京都府京丹後市久美浜町に伝わるお話です。

 

ある飛脚が仕事中、急にうんこをしたくなりました。

野雪隠(のせんち)といって、野外に設置された便所があったので、飛脚はすぐに飛び込みます。

中でウンウンとがんばっていますと、天井のほうから声が聞こえてきました。

「首つれ、おもしれぇぞ、首つれ、おもしれぇぞ」

それを聞いた飛脚は、「へー、首吊りってのは、そんなに面白いことなのかい。ヨシ、それならひとつ、おれも首でも吊ってみようかい」という気持ちになってきます。

さあ、やるか! ……と首を吊ろうとしますが、そこで「待てよ」となりました。

今はまだ、仕事の途中なのです。手紙を届けるべき人に届けないまま、ここで首を吊るわけにはいきません。飛脚は仕事に真面目な男でした。

「戻ったら首を吊るから待っててくれ」

律儀にそう声をかけて野雪隠を飛び出すと、一生懸命に手紙を届けました。

ようやく仕事を終えると、飛脚はまた野雪隠に戻ってきます。

 

ところが、野雪隠の中には先客がおりました。

見知らぬ男が、ぶらぁんと下がっていたのです。

それを見た飛脚は、びっくりしてしまい、こんなふうに思います。

(首吊りとは、こんなに恐ろしいことなのか!)

縊死体を目の当たりにし、ようやくそれが「おもしろくない」ことだと気づいたのです。

そのおかげで、飛脚は首を吊らずに帰ったということです。

 

おそらく、「先客」も飛脚同様、お手洗いを利用しただけで首吊りに誘われてしまったのでしょう。なんとも理不尽な怪異です。

 

主の祟り

南桑田郡曽我部村(現在の亀岡市曾我部町各町)に、法貴坂(ほうきざか)という坂があります。法貴の名は、弘法大師の坂なので貴(とうと)いことからつけられたといわれています。

この坂を50メートルほど上がりますと、右側の岩の間に行者様を祀る祠があります。

明治の終わりから大正の初めくらいのころです。

 

ある男がこの辺りに罠を仕掛け、【白狐】を生け捕りました。全身が真っ白ではありませんが、九割は白い狐だったそうです。

男は知らなかったのでしょうか。白狐は年を経て霊力を持った霊狐であり、神の眷属ともいわれる、たいへん稀な存在であるということを。

しかもこの狐、実は行者様を祀る祠の主でした。

それを捕まえてしまったのですから、これはとんでもない愚行です。

祟りなのでしょう。

この白狐を殺した者はまもなく、首を吊って死んでしまったそうです。

 

救えば救われることも

京都府福知山市大江町に伝わる、ヒヤリとさせられるお話です。

 

ある農家の家に、みすぼらしい姿をしたお遍路さんが訪ねてきました。

「どうか1晩、泊めてください」

ですが、その家には人が寝られるような場所がありません。だから泊めることはできないと断りましたが、庭の隅でもどこでもかまわないからと頼んできます。

「筵(むしろ)1枚だけ貸してくださればいいので、どうかお願いします」

そこまでいわれて断るわけにもいきません。

まあ庭の隅でいいなら……と、お遍路さんを泊めてあげることにしました。

 

その家の庭の隅には俵(たわら)の積んである場所があり、そこにもたれるとお遍路さんは貸してもらった筵をかぶって寝ました。

しばらくして、そこに身なりのきれいなお坊さんがやって来ました。

お坊さんは俵の上にチョイと乗ると、手をおいでおいでと動かします。

おいでおいでをしている先は、その家の嫁の部屋で、嫁は病気で寝込んでいました。

すると、その部屋からハチマキをした嫁が、青い顔で出てきました。

嫁が俵の上にあがると、お坊さんは上から縄をかけ、首を吊れるように輪をこしらえます。

その縄で嫁さんが首を吊ろうとするので、下で寝ていたお遍路さんは「いかん!」と大声をあげました。

すると、お坊さんは消え、縄もその場にポトリと落ちました。

こうして、嫁は命を救われたのです。

お大師さんがお遍路さんに姿を変え、嫁の命を【死神】から守ってくれたのです。

 

<参考資料>

大江町教育委員会『大江のむかしばなし』

垣田五百次・坪井忠彦編『口丹波口碑集』

久美浜町教育委員会『久美浜町の昔話 ふるさとのむかしむかし』

 

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文・絵=黒史郎

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