80年代の「瞑想ブーム」と僕の「TM教室体験記」続き/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

「TM」の方法と実践

さて、前回は高校生時代の僕がセミナーに通って「TM」(超越瞑想)の方法を伝授されるまでを語ってみたが、「瞑想」というものはやり方を教えてもらえば誰でもすぐにできるものでもないらしく(「TM」は基本的に修練といったものを必要とせず、比較的「誰でもすぐにできる」タイプの「瞑想」なのだが)、理想的な「瞑想状態」を獲得するためには、コーチを受けたあとは教えの通りに自分で繰り返し行い、日々継続し、習慣化していかなければならないらしい。うまくできたと思えるときもあればできないときもあるし、人によって上手下手もあるだろうし、ある程度は向き不向きもあるようだ。

 

で、僕はどうだったのか?

……という話の前に、ここで「TM」の方法というか、大まかに「TM」がどんな「瞑想」なのかということについてあらためて説明してみたい。あくまで30年前に習った内容をもとにした僕の認識内の解説なので、これが必ずしも正しい「TM観」ではないかも知れない。しかもアホなロック少年が「サイケデリック感覚」を得たくて取り組んだことなので、だいぶバイアスがかかっている可能性もある。

まず、原則として「TM」は朝晩の2回、毎日行う。1回に要する時間は約20分。あまり長くやってしまうと終了後に頭が痛くなったり、眠気が抜けなかったりすることがあるそうだ。ただし移動中の電車やバスのなかで行う際は、なぜか時間制限はない。僕の先生はその理由を言わなかったが、おそらく乗りものの中で行う瞑想は、振動や雑音のせいで「深み」には達しにくいから、ということなのだと思う。精神や肉体にそれほどの影響はないという判断なのだろう(わかんないけど)。

「瞑想」の姿勢は自由。ただ「横になってはダメ」ということになっているので、とにかく楽な姿勢で座る。椅子やソファに腰掛けてもいいし、床に座ってもいい。その状態で目を閉じ、3分ほどリラックスしながらボ~ッとする。これはいわば「瞑想」前の準備状態、アイドリングのようなものだ。その後、あらかじめコーチからひとりにひとつずつ与えられている「マントラ」(4文字程度の無意味な言葉)を頭のなかで繰り返し唱える。その間、雑念を払ったり、なにかに集中したり、「無になろう」といった精神的努力をする必要はまったくない。この部分が当時、「TM」の特徴としてよく語られたところで、「瞑想」中に何を考えてもいいし、次々に浮かぶ「雑念」はただそのまま放置しておけばいい。いくらでも気を散らしていいのである(まぁ、限度はあるだろうけど)。僕の先生は「頭が痒ければ普通にかいていいし、何かが気になったら途中で目を開けてもいい」と言っていた。ただ「マントラ」を途切れないように繰り返してさえいればいいのだが、これもたとえば途中で寝落ちとしてしまうなどして途切れてしまうことがある。それでもOKらしい。その場合、この「瞑想」は「失敗」ということになるのだが、「眠くなったら寝てしまってもかまわない」と教えられた。とにかく精神状態、というか「気持ち」に人為的な力をいっさい加えず、ひたすら「浮遊するにまかせる」ということが重要らしい。

確かルドルフ・シュタイナーがなにかの講演で、瞑想の本質は「目覚めながら眠ることだ」と言っていたと思う。かなりタネ明かし的なぶっちゃけた言いまわしだが、要するに眠って夢を見たりする無意識の状態に、意識の一部を覚醒させたまま入る……というのが「瞑想」のキモなのだろう。こんなふうに非常に乱暴に要約してしまえば、しばしば「瞑想」中に体感することがあるといわれる「神秘体験」やら「啓示」などは、結局のところすべて夢、もしくは自分の意識下のビジョンに過ぎないということになってしまって、話がつまらなくなるのだが……。

「ムー」1985年3月号「超人への道を開くクンダリニーの秘密」より。神秘のエネルギー「クンダリニー」を「瞑想」によって開発するという内容。80年代の「第一次瞑想ブーム」においては、現在のようなリラックス効果とは別に「瞑想」の神秘的側面も強調されていた。

 

2週間で断念……(笑)

で、僕はどうだったのか?……という話になるのだが、どうやら僕はまったく「瞑想」に向いてない人間だったようだ。結局、僕の「TM」は2週間ほどしか続かなかった。20分の間、ゆったりと自然体を保ち、「精神をなすがままにまかせよ」ということがどうしてもできなかったのだ。アレコレのことが次々に気になったり、体のあちこちがムズズしてきたり、「マントラを唱えるスピードはこれでいいのかな?」とか、「飽きたなぁ。早く終わらないかなぁ」ということばかり考えてしまう。「集中する必要はない」というルールがあるとはいえ、これが逆にやっかいで、むしろなにかに集中させてくれた方が楽なのだ。「瞑想」をすればするほど、リラックスどころか通常よりイライラしてきて、なんだか苦痛になってあっさりやめてしまった。たぶんこうした段階を訓練で越えなければならないのだと思うが、考えてみれば子どもの頃からじっと座っていることが大の苦手な性分だったので、まぁ、ちょっと僕には無理な芸当(?)だったのだと思う。

ただ、何度かは「あ、今できたのかも」という瞬間はあって、そのときは本当に「覚醒しながら夢を見る」という状態を体験した。それが本来の「瞑想」の効果なのかはまったくわからないが、僕の場合は子ども時代の記憶に引き戻されることが多く、小1の頃の運動会の会場に迷い込んだりして、「なんでこんなビジョンを見せられるだろうなぁ?」と首を傾げたりした。そういう状態から覚めて「瞑想」を終えたときは、たった20分しか経過していないのに、一晩グッスリと眠ったあとのように頭がスッキリした……ような気がしたものだ。

 

というわけで、僕の「瞑想」体験のお話は「結局、時間とお金のムダでした」というトホホなオチでおしまいである。僕は80年代のいわゆる「精神世界ブーム」かなり遠いところにいて、どちらかといえば冷笑しながらブームの盛りあがりを眺めていたつもりだったのだが、こうして当時を思い出してみると、これ以上ないくらいにモロにハマりまくっていたことに今さらながら愕然としてしまう。近代オカルトは世界の経済活動に大変動をもたらした産業革命へのカンターとして立ちあがったという説があるが、日本人の経済観念が激しくグラつきはじめたバブル前夜に「精神世界」がブームになったのも、同じようなメカニズムだったのかな……とも思う。すべてが数字で換算できるという風潮への無意識的で曖昧な「対抗」だったのかもしれない。

「ムー」1987年6月号「おもしろ瞑想法講座」より。当時としては非常にカジュアルな実用的「瞑想講座」。日々の日常生活に「瞑想」を上手に取り入れて生活をエンジョイしよう!という内容。「テレビを見ながら行う瞑想法」などが解説されている。

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第40回 80年代瞑想ブームに乗った僕の「TM教室」体験記

◆第39回 80年代・バブル前夜に流行した「超越瞑想」

◆第38回 ぼくの実話怪談・箱根・仙石原の怪(後編)

◆第37回 ぼくの実話怪談・箱根・仙石原の怪(前編)

◆第36回 権力と心霊譚、「津の水難事故怪談」の政治学

◆第35回 「津の水難事故怪談」の背景にあった「悲劇の連鎖」

◆第34回 テレビとマンガが媒介した最恐怪談=「津の水難事故怪談」

◆第33回 あの夏、穏やかな海水浴場で何が?「津の水難事故怪談」

◆第32回 「小坪トンネル」は本当に「ヤバい」のか?

◆第31回 「小坪トンネル怪談」再現ドラマの衝撃

◆第30回 70年代っ子たちと『恐怖の心霊写真集』

◆第29回 1974年『恐怖の心霊写真集』の衝撃

◆第28回 「コティングリー妖精写真」に宿る「不安」

◆第27回 コティングリー妖精写真と70年代の心霊写真ブーム

◆第26回 ホラー映画に登場した「悪魔の風」

◆第25回 人間を殺人鬼に変える「悪魔の風」?

◆第24回 「幸運の手紙/不幸の手紙」の時代背景

◆第23回 「不幸」の起源となった「幸運の手紙」

◆第22回 「不幸の手紙」のはじまり

◆第21回 「不幸の手紙」…小学校を襲った「不安の連鎖」

◆第20回 80年代釣りブームと「ツチノコ」

◆第19回 70年代「ツチノコ」ブーム

◆第18回 日本産ミイラ「即身仏」の衝撃

◆第17回 1960年代の「古代エジプト」ブーム

◆第16回 ユニバーサルなモンスター「ミイラ男」の恐怖

◆第15回 昭和の「ミイラ」ブームの根源的な謎

◆第14回 ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

文=初見健一

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