70年代オカルト少年たちのバイブル『ふしぎ人間 エスパー入門』/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

ボンクラ小学生の「必読書」

この『昭和こどもオカルト回顧録』のそもそものコンセプトは、「僕が少年時代に読み漁った昭和のオカルト児童書を紹介しつつ、70年代のオカルトブームをリアルに回顧してみる」というものだったはずなのだが、ここ最近は児童書の紹介をまったくやってない……ということに気づいてしまった。

「これではいかん!」ということで、今回は本道に戻り、僕が小学生時代に愛読していたオカルト本を紹介してみることにする。しかも、同世代なら誰もが読みふけったといっても過言ではない超ビッグタイトル。70年代のオカルト大好きボンクラ小学生たちにとっては必読書中の必読書、中岡俊哉センセイが「小学館入門百科シリーズ」に遺した名著『ふしぎ人間 エスパー入門』である。

『ふしぎ人間 エスパー入門』(中岡俊哉・著/1974年/小学館入門百科シリーズ29)

 

「あなたがもっているかくれた超能力をひきだしトレーニングする決定版!」という惹句の通り、小学生向けの「超能力者養成マニュアル」。中岡氏が71年にヒットさせた新書『テレパシー入門』の子ども版ともいえる内容で、児童向け「超能力本」のパイオニア的一冊だ。

 

「小学館入門百科シリーズ」は当時、多くの小学校の図書館、及び学級文庫に常備されていた「基本図書」だったが、なかでも『エスパー入門』は子どもたちからの絶大な人気を集めた一冊だ。ウチの小学校では学校図書館に蔵書されていたのはもちろん、各クラスの学級文庫にも常備されていたが、どちらも常に貸し出し予約が殺到しており、めったに手にすることができなかった。

僕は予約待ちをして借りて初めて読んだが、本書はタイトルが示す通り「超能力者になるための訓練本」である。一度読めばそれでOKといったものではなく、繰り返し読みながら記述されている「訓練」をひとつひとつクリアしていかなければならない。晴れて「超能力者」になれるその日が来るまで(いつ来るのか?)、常に手元に置いていなければならない「座右の書」なのである。つまり、「買わざるを得ない本」なのだ。

結局、僕も周囲の友達も、多くの子がお小遣いで『エスパー入門』を購入することになった。こういうところに中岡センセイのヒットメーカーとしての才覚が感じられるのだが、とにかく本書は当時かなりのベストセラーになっていたはずである。

記憶に焼きついている『エスパー入門』の扉カラー口絵。この真剣な表情で「ダウジング」を行う少年の写真を眺めただけで、当時のオカルト大好き小学生たちは未知の世界の期待で心がうずきまくったのである。

 

ユニークな「超能力訓練法」の数々

『エスパー入門』を読み返してみると、今も感心してしまうのが構成の素晴らしさである。先述の通り本書のキモは「訓練本=トレーニングマニュアル」であり、テレパシーやテレキシネスなど、どのような種類の超能力の素養が自分にあるかを見極める「素質テスト」(チャート式アンケート。「素質がない」という残念な結果にはならないようにできている)からはじまり、精神修養などの「基本訓練」、カードを使った実験などの「高度な訓練」へとステップアップしていく流れになっている。

しかし、各章の冒頭には「世界の著名な超能力者」や「ニュースになった超能力事件」などを解説する読み物ページが設けられており、「超能力」に関する知識を深められるとともに、「超能力」の実在性(?)をナマナマしく体感できるように構成されているのだ。

僕のような飽きっぽいガキは「基本訓練」のあたりで「なんかアホらしくなってきた……」となってしまいがちなのだが、「殺人犯を遠感知能力で特定!」とか「強盗の刃物をテレキシネスで叩き落とした!」とか「ピカソの死を予知したペルーの姉妹!」といった各章冒頭の迫力に満ちたリアルな「超能力者」のエピソードによって、「やっぱり超能力ってスゴイ! 僕もがんばるゾ!」とモチベーションが再燃するのである(アホ丸出しである)。入門書として非常に理想的な組み立てなのだ。

精神修養を目的とした「基本訓練」のひとつ「コップ式トレーニング」。水を満たしたコップを頭上に掲げ、水が溢れないように静かに歩きまわるだけの「訓練」である。マヌケ以外のなにものでもないが、当時の僕はこれにも真剣に取り組んでいた。

 

繰り返し熟読し、掲載される多彩な「訓練」も本気で実践していたので、本書には多くの思い出が詰まっている。「基本訓練」の「座禅」や水の入ったコップを頭に乗せて集中力を高める「コップ式集中力訓練」、片足立ちで気持ちを整える「霊能体操」などは、やっている最中に親が部屋に入ってきたりすると恥ずかしさで死にそうになった。「なにやってるの?」などと聞かれ、「い、いや、なんでもない……」とシドロモドロに答えた醜態も今となっては懐かしい。

「米軍は太平洋海底に潜伏した原潜ノーチラス号内で極秘裏にエスパー兵士を養成している!」という有名な都市伝説も、確か本書によって初めて知ったのだと思う。大人になってから真っ赤な嘘だったと知り、20年越しの衝撃を受けたものだ。「ESPカード」(本書では独自の「中岡式カード」を用いる)は、近所のよっちゃんと共同制作した。油性マジックを使ったので裏側から図形が透けて見えてしまい、誰もが透視能力を得られるカードになってしまった。

あと、怖かったのが「写真による予知能力訓練」。外人女性の顔写真が三枚掲載されており、「このなかのひとりはすでに病気で死んでいる。誰が死者か当ててみよう!」という不謹慎かつ悪趣味なクイズで、3つの粗いモノクロ写真が正視できないくらいに怖かった。

最終章が「霊視の方法」や「心霊写真の撮り方」になっているのは今の目で見るとかなり違和感があるが、これは初期の「超能力本」ならではの特徴。ジャンルが未分化だったオカルトブーム黎明期には「超能力」や「心霊」、ときには「UFO」などをごっちゃに語るオカルト本が主流だったのだ。特に中岡氏の著作にはこの傾向が強く、「不思議なものはなんでも詰め込んでおきました」みたいなものが多かった。しかし、当時の子どもたちにはそれがまた大きな魅力だったのだ。

太平洋沖に潜伏していたノーチラス号内部で米軍の「テレパシー実験」が極秘裏に行われていた!……という話は、当時の多くのオカルト本に掲載された。だがこの時期、ノーチラス号は寄港しており、太平洋には出ていなかったという話も……。

 

『ふしぎ人間 エスパー入門』の刊行は1974年の8月。「あれ?」と思う人も多いだろう。「超能力ブーム」勃発のきっかけといわれる『木曜スペシャル』のユリ・ゲラー特番から5か月しか経過していない。執筆、編集の時間を考えれば、「スプーン曲げ」の大流行よりもちょっと早いタイミングで企画されているのだ。そして実際、本書にはユリ・ゲラーの名はまったく登場しない。

僕らはついつい「ユリ・ゲラーによって『超能力ブーム』に火がついた」と口にしてしまいがちだが、それは間違いとはいえないものの、それ以前から「超能力」は日本の子ども文化にもしっかりと定着していた。

『ドラえもん』の「エスパーぼうし」の回で「クレヤボヤンス」や「テレキシネス」が詳細に解説されたのは1970年だし、「♪サイコキネシ~ス、テレパシ~」の歌を流行らせたアニメ版『バビル二世』の放映開始は73年。同年、『うしろの百太郎』では「ESPカード」が解説されている。そして、中岡俊哉に見いだされた「スプーン曲げ少年」は、ユリ・ゲラー特番の2か月前にすでにテレビ出演を果たしている。

徐々に盛りあがりを見せていた「超能力ブーム」に、絶妙なタイミングで投入された超強力な「起爆剤」がユリ・ゲラーだったのである。ユリ・ゲラーが降臨しなかったとしても日本の子どもたちの間で「超能力ブーム」は起こっていた……とまでは断言できないが、「超能力ブーム」を回顧する際は、一節によればユリ・ゲラーにはかなり批判的だったといわれる中岡俊哉の「功績」(?)を忘れてはならない。

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第41回 80年代の「瞑想ブーム」と僕の「TM教室体験記」続き

◆第40回 80年代瞑想ブームに乗った僕の「TM教室」体験記

◆第39回 80年代・バブル前夜に流行した「超越瞑想」

◆第38回 ぼくの実話怪談・箱根・仙石原の怪(後編)

◆第37回 ぼくの実話怪談・箱根・仙石原の怪(前編)

◆第36回 権力と心霊譚、「津の水難事故怪談」の政治学

◆第35回 「津の水難事故怪談」の背景にあった「悲劇の連鎖」

◆第34回 テレビとマンガが媒介した最恐怪談=「津の水難事故怪談」

◆第33回 あの夏、穏やかな海水浴場で何が?「津の水難事故怪談」

◆第32回 「小坪トンネル」は本当に「ヤバい」のか?

◆第31回 「小坪トンネル怪談」再現ドラマの衝撃

◆第30回 70年代っ子たちと『恐怖の心霊写真集』

◆第29回 1974年『恐怖の心霊写真集』の衝撃

◆第28回 「コティングリー妖精写真」に宿る「不安」

◆第27回 コティングリー妖精写真と70年代の心霊写真ブーム

◆第26回 ホラー映画に登場した「悪魔の風」

◆第25回 人間を殺人鬼に変える「悪魔の風」?

◆第24回 「幸運の手紙/不幸の手紙」の時代背景

◆第23回 「不幸」の起源となった「幸運の手紙」

◆第22回 「不幸の手紙」のはじまり

◆第21回 「不幸の手紙」…小学校を襲った「不安の連鎖」

◆第20回 80年代釣りブームと「ツチノコ」

◆第19回 70年代「ツチノコ」ブーム

◆第18回 日本産ミイラ「即身仏」の衝撃

◆第17回 1960年代の「古代エジプト」ブーム

◆第16回 ユニバーサルなモンスター「ミイラ男」の恐怖

◆第15回 昭和の「ミイラ」ブームの根源的な謎

◆第14回 ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

文=初見健一

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