魚を操るオソ/黒史郎の妖怪補遺々々

文・絵=黒史郎

妖怪補遺々々(ようかいほいほい)

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 連載第61回は、魚を陸まで導いて捕らえる水辺の猫のような妖怪、その正体を補遺々々します。

 

魚に何が起こったか?

『〇〇海岸で魚が大量死』

年に何度か、このようなニュースが私たちの耳に飛び込んできます。

浜辺に大量の魚の死骸が打ち上げられる、あるいは水面に無数に浮かんでいる、といった不可解な現象が世界中で起きているのです。

波打ち際に現れた死屍累々の銀色の道。死魚の白く濁った目。異臭に誘われて群がるハエの群れ。なかなかショッキングな光景です。

打ち上げられるのはイワシ、フナ、エビ、イルカ、深海魚など様々で、クジラのような大型生物が海岸に打ち上げられてしまう例もあります。

 

原因は不明な場合が多く、水質汚染、異常気象、旱魃による水位低下、内部波、獲物の深追いや大型生物からの逃走中に方向感覚が狂った、などさまざまな説があります。

「海の生き物が陸に打ち上げられて戻れない」「大量の死骸が打ち上げられている」

こういった現象を「ストランディング(座礁)」といい、「集団自殺」として伝えられることもあります。なかにはこの現象を、大地震の予兆ととらえる声もあるのです。

原因はひとつに特定できません。そこに未知の力が働いていないともいえないのです。

魚を陸へとあげてしまう――そんな妖怪もあります。

 

魚を操る怪しき存在

香川県三豊郡詫間町には【オソ】と呼ばれるものが伝わっています。

これは磯にいる猫のような姿をした大きなもので、魚を捕食するのですが、その捕獲方法がとても珍しいやり方なのです。

まず、海中を泳いでいき、狙った魚の上にまたがります。

その状態から両手で魚の視界を塞ぎ、魚の頭を陸のほうへと向けます。

視界を塞がれている魚はオソにされるがまま。そのまままっすぐ陸へと向かって泳ぎだします。

やがて、魚は陸地に乗り上げてしまい、そこから身動きがとれなくなってしまいます。

これが、オソの狩りのやり方です。

水辺にいて、魚を陸まで導いて捕らえる猫のようなもの。

――オソとはいったい、何者なのでしょう。

 

オソの正体?

これはおそらく、カワウソのことではないでしょうか。

カワウソは「カワオソ」「オソ」とも呼ばれます。『和漢三才図会』によるとカワウソの和名は「宇曾(ウソ)」であり、子狐に似るとあります。宅間町の【オソ】は狐ではなく猫に似ているとありますが、両獣にそこまで見た目の違いはないように思います。

しかし、泳ぐ魚にまたがって目隠しをし、陸まで誘導するなんて器用な真似がこの動物にできるものなのでしょうか。私はすぐにネットで調べました。

……なんと、やっていました。

鮭の皮で自分に目隠しをするカワウソの画像を見つけてしまったのです。魚の目を隠すのとは逆ですが、手先はかなり器用なようです。

 

また、カワウソには捕らえた魚を陸地に並べる習性があります。その光景がまるで祭儀のようであることから、この行動を「獺祭(だっさい)」といいます(「おそまつり」「うそまつり」ともいいます)。『和漢三才図会』にも「正月と十月の二度、魚を祭る」という記述がありました。

こうしたカワウソの奇妙な習性を見た昔の人たちは、そこに神秘的なものを感じとったのでしょう。タヌキ、キツネのように、大入道などの化け物に変身して人をたぶらかす怖い獣だと信じたのです。

さすがに世界中で起きている「魚の大量死」の原因ではないでしょうが……。

 

<参考資料>

『民俗採訪』四十八年度

斎藤守弘『奇現象の科学』

寺島良安『和漢三才図会』

 

文・絵=黒史郎

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