消えてしまった定番オカルト「心霊手術」!/昭和こどもオカルト回顧録

文=初見健一

メスも麻酔も使わずに行う驚異の手術!

「四次元」「幽霊船」「不幸の手紙」「地底人」……などなど、昭和こどもオカルトの世界で一時期は定番ネタだったにもかかわらず、今ではほとんど語られなくなってしまった「昭和オカルト的オワコン」を本コラムではいくつか取りあげてきた。今回のネタもその典型だ。同世代であれば、幼少期に何度もテレビで目にしているはずの「心霊手術」である。

「心霊手術」は、いわゆる「サイキックヒーリング」と称するものの一種。今では「サイキックヒーリング」というと「手かざし」のような穏当(?)なものをイメージするだろうが、当時流行したのはあくまで外科的手術だ。「術者」がメスも麻酔も使わず、患者の腹などに素手をブスリと突っ込み、あっという間に血まみれの腫瘍などをつかみだして病気を治療してしまうパフォーマンス(?)である。

というわけで最初にいっておくが、このネタを扱う今回と次回は、いつものように70年代のオカルト本や「ムー」のバックナンバーから引用して掲載する画像のなかに、どうしても少々エグいものが含まれてしまう。モロなものは避けたつもりだが、一応「閲覧注意!」とお断りしておく。

1974年刊行『四次元図鑑』(橋本健、小田秀人、中岡俊哉ほか・著/池田書店)より。同書はブームの只中に刊行されたためか「心霊手術」について非常に詳細な記述があり、各ケースについて医学的見地からの分析などを行っている。

 

記憶では、このネタは僕が物心ついたころから小学校の低学年くらいまで、つまり70年代の初頭からなかばあたりにかけて、やたらとテレビで特番が組まれていた。「心霊」や「超能力」、「UFO」関連のオカルト番組が定着する以前のことで、つまり70年代オカルトブームの本格的な勃発前だったと思う。全盛期はたぶん就学前なので、僕の記憶もかなりあやふやだが、ほとんどの「心霊手術」特番はスタジオでの手術の「実況形式」(本当にライブだったとは思えないが)、あるいは取材班が現地(主にフィリピンやブラジル)に行って撮ってきた記録フィルムを放映するスタイルだった。どちらの場合も患者の内臓などをモロに映すことはさすがになかったが、それでも切開された患者の血まみれのお腹や、取り出されたグチャグチャな「患部」などは遠目から見せていた。特に「実況形式」の番組はゾクゾクするような臨場感があって、アナウンサーがいちいち「ああっ、今、彼の右手が患者の腹部に吸い込まれるように入っていきましたっ!」とか、「不思議です! 麻酔もなしで腹を切開されているのに、患者はまったく痛みを感じていないようですっ!」とか、「彼の手が腹の中をまさぐっているようです。あっ、肉片のようなものを取り出しましたっ!」とか、大興奮で解説を入れてくれる。

カメラは「術者」の背後にあるので手術のプロセスは把握できないが、見えない分、それだけこちらの想像力が刺激されまくり、解説を聞いている僕らも手に汗を握った。そして、最後は決まって手術を受けたばかりの患者がスクッと立ちあがり、アナウンサーが「見てください! 患者のお腹には手術の傷がまったく残っていません! これは奇跡ですっ!」みたいな感じで大団円となる。

こんなものが夕飯時のゴールデンタイムに堂々と放映されていたのだから、あらためて「僕らはスゴイ時代に幼少期を過ごしていたんだなぁ」と思ってしまう。

同じく『四次元図鑑』より、典型的な「心霊手術」の光景。このキャプションにある「トニー」なる「術者」は、日本のテレビにも出演して大論争を巻き起こした人物。詳しくは次回で解説する。

 

衝撃だった『ブラック・ジャック』の「その子を殺すな!」

「心霊手術」と聞いて僕ら世代が即座に思い出すのは、テレビ番組だけはない。多くの人が手塚治虫のマンガ『ブラック・ジャック』のエピソードを懐かしく思い浮かべるだろう。1974年に『週刊少年チャンピオン』に掲載された非常に衝撃的な作品「その子を殺すな!」だ。

「心霊手術」のテレビ特番出演のために来日した超能力者「ハリ・アドラ」がマスコミにけしかけられて「ブラック・ジャック」と対決するというもので、一種の「時事ネタ」であり、現代医学VS「心霊手術」のバトルといった内容でもあった。

患者は子宮外妊娠で非常に危険な状態にある女性。母体を救うには胎児を犠牲にするしかないと主張する「ブラック・ジャック」に対し、「私なら両方とも救える」という「ハリ・アドラ」は、不思議な力で胎児を見事に生きたまま取り出してしまう。これで対決は「心霊手術」側の勝利になるはずなのだが、取り出された胎児は作中で「生存能力がない」と解説される大脳のない「無頭児」だった。「ブラック・ジャック」は「ハリ・アドラ」にいい放つ。「奇形であることは最初からわかっていた。脳のない子がどんな一生を送る? 殺したほうが母親のためにもよかったんだ。そのほうが慈悲なんだ!」。勝負には勝ったが、本当の意味での「救い」というテーマでは負けてしまった「ハリ・アドラ」は打ちひしがれ、そこで話は終わる……。

「その子を殺すな!」が収録されている『ブラック・ジャック』第2巻(手塚治虫・作/秋田書店/1974年)。このエピソードは当時の子どもたちに多大な衝撃を与えた。

 

このエピソードは以前から倫理的に問題があることが指摘されるが、その判断はここでは置くとして、とにかく非常にアンビヴァレントな印象を与える。

根底にあるのは「心霊手術」、もしくは当時の「心霊手術」ブームという風潮への作者の強烈な違和感だ。医学を学んだ経験を持つ手塚にとって、当時のマスコミがこぞって「心霊手術」をもてはやす浮ついた状況は、怒りに近い感情を誘発するものだったのだろう。それだけ70年代初頭の「心霊手術」ブームが騒がしいものだったということがわかるが、おもしろいのは、「ハリ・アドラ」が「ただの詐欺師だった」というオチにはしていないところだ。「心霊手術」ブームを否定する意図を持ったこの作品で、しかし「心霊手術」の「実在性」については完全に肯定されているのである。

ところが、ラストでは「無頭児」を登場させ、「真に患者を救う医療とは?」といった抽象的な観点から、「実在性」を肯定した「心霊手術」をさらに否定する。このねじれが味わいどころだが、同時に非常に屈折した印象を与える。倫理の問題を抜きしても、「奇形児は殺したほうがいい」という価値観を強引にふりかざす「ブラック・ジャック」は、やはりどうもいつもの彼らしくない。人の形すらしていなかった「ピノコ」を救ったように、彼はだれもが「救いようがない」と見捨てる存在を、それでもいつも救う側に加担してきたのではなかったか?……と思ってしまうのだ。

もともと『ブラック・ジャック』は非常に危険な倫理観の綱渡りをする挑戦的な設定の作品で、最終的には「割り切れなさ」のなかで宙吊りにされたままプツリと終わる回も多く、必ずしも「ブラック・ジャック」が常に正しい判断をしているわけでもないという形で、読者の「正しさ」に揺さぶりをかけてきた。「その子を殺すな!」も、そうした綱渡りのひとつだと僕は考えたいが、当時のブーム化した「心霊手術」に対し、手塚は作家としての強烈な好奇心と、医学を学んだ者としての激しい軽蔑が入り混じったような、非常にモヤモヤとした感情を抱いていたのだろう。

 

……あれ? なんだか今回はただの「懐かしマンガ話」になってしまった。次回は、「心霊手術」ブームをもう少し掘りさげ、ブームのきっかけと、どうして下火になっていったのか?……というあたりを回顧してみたい。

「ムー」1980年7月号「驚異の心霊治療」より。すっかりブームが沈静化した時期に、中岡俊哉が『ムー』誌上で「心霊治療講座」を展開。彼はブラジルで実際に「心霊手術」を受けて以来、一貫してその実在性を肯定している。

 

初見健一「昭和こどもオカルト回顧録」

◆第42回 70年代オカルト少年たちのバイブル『ふしぎ人間 エスパー入門』

◆第41回 80年代の「瞑想ブーム」と僕の「TM教室体験記」続き

◆第40回 80年代瞑想ブームに乗った僕の「TM教室」体験記

◆第39回 80年代・バブル前夜に流行した「超越瞑想」

◆第38回 ぼくの実話怪談・箱根・仙石原の怪(後編)

◆第37回 ぼくの実話怪談・箱根・仙石原の怪(前編)

◆第36回 権力と心霊譚、「津の水難事故怪談」の政治学

◆第35回 「津の水難事故怪談」の背景にあった「悲劇の連鎖」

◆第34回 テレビとマンガが媒介した最恐怪談=「津の水難事故怪談」

◆第33回 あの夏、穏やかな海水浴場で何が?「津の水難事故怪談」

◆第32回 「小坪トンネル」は本当に「ヤバい」のか?

◆第31回 「小坪トンネル怪談」再現ドラマの衝撃

◆第30回 70年代っ子たちと『恐怖の心霊写真集』

◆第29回 1974年『恐怖の心霊写真集』の衝撃

◆第28回 「コティングリー妖精写真」に宿る「不安」

◆第27回 コティングリー妖精写真と70年代の心霊写真ブーム

◆第26回 ホラー映画に登場した「悪魔の風」

◆第25回 人間を殺人鬼に変える「悪魔の風」?

◆第24回 「幸運の手紙/不幸の手紙」の時代背景

◆第23回 「不幸」の起源となった「幸運の手紙」

◆第22回 「不幸の手紙」のはじまり

◆第21回 「不幸の手紙」…小学校を襲った「不安の連鎖」

◆第20回 80年代釣りブームと「ツチノコ」

◆第19回 70年代「ツチノコ」ブーム

◆第18回 日本産ミイラ「即身仏」の衝撃

◆第17回 1960年代の「古代エジプト」ブーム

◆第16回 ユニバーサルなモンスター「ミイラ男」の恐怖

◆第15回 昭和の「ミイラ」ブームの根源的な謎

◆第14回 ファンシーな80年代への移行期に登場した「脱法コックリさん」

◆第13回 無害で安全な降霊術? キューピッドさんの謎

◆第12回 エンゼルさん、キューピッドさん、星の王子さま……「脱法コックリさん」の顛末

◆第11回 爆発的ブームとなった「コックリさん」

◆第10回 異才シェイヴァーの見たレムリアとアトランティスの夢

◆第9回 地底人の「恐怖」の源泉「シェイヴァー・ミステリー」

◆第8回 ノンフィクション「地球空洞説」の系譜

◆第7回 ウルトラマンからスノーデンへ!忍び寄る「地底」世界

◆第6回 謎のオカルトグッズ「ミステリーファインダー」

◆第5回 東村山水道局の「ダウジング事件」

◆第4回 僕らのオカルト感性を覚醒させた「ダウジング」

◆第3回 70年代「こどもオカルト」の源流をめぐって

◆第2回 消えてしまった僕らの四次元2

◆第1回 消えてしまった僕らの四次元1

文=初見健一

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