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「うどんげの華」/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

うどんげの華

和歌山県/香山さと(56歳)

 私にはあまりオカルトだとか超能力というものはわかりませんが、この世の中には不思議なことはあると思います。
 そのひとつに、〝うどんげの華〞というのがあります。周知のようにこれは、クサカゲロウという、蚊の5〜6倍もあるような大きい虫の卵です。でも、それにしてはめったにこの卵は目につきませんし、私も56歳のこの年まで3度しか見たことがありません。しかも、それは決まって不吉な前兆として現れたのです。

 いちばん初めに見たのは、私が16歳の、昭和20年6月1日のことでした。
 その半年くらい前から、日ごろ健康な父(当時60歳)が何となく体がだるいといって寝たり起きたりしていたのですが、その父の、中折帽にうどんげの華が咲いていたのです。柱にかけてあったグレーの帽子の、真ん中のへこんだところに、白い糸のような1センチくらいの軸が、パラパラと6本か7本くらい、きれいに扇状に並んでいて、その軸の頭が小さく丸くふくらんでいました。
 それまでは私は、うどんげの華のことは友人から聞いてはいたのですが、見たことはありませんでした。でも目についた一瞬、なぜかスーッと背筋あたりが冷たくなったのを覚えています。そして、いつもならハタキをかけてしまうのに、そのときは何となくそれができず、そのままにしておきました。
 その翌日の、夕方でした。急に父の容態が変わり、亡くなってしまいました。しかし私はその時点では、うどんげの華のことなど大して気にもしていませんでした。友人から、母親の死の前日に電灯の傘の下にうどんげの華が咲いていたという話を聞いていたことも、すっかり忘れていたのです。

 ところが、それから5年後のことでした。
 70歳を過ぎるのに、常に豪快で面白くて、元気すぎて困るといわれていた母方の伯父が、少し体調を崩して寝ている、というので見舞いに行きました。でも、伯父はいたって元気そうで、顔色もよくて相変わらず冗談ばかりいい、まったく病人らしくありませんでした。
 その様子に、安心して帰ろうとしたときでした。玄関で靴をはこうとしてふと片隅に揃えてある伯父の靴が目についた瞬間、私はギクリとしました。黒い革靴のつま先のところに、あのカビのような、かすかなうどんげの華が、ひっそりとくっついていたのです。
 でも、まさか……と思いながら帰った私に、その夜半、伯父の死亡が知らされました。

 そして、3回目は、つい4年前のことでした。山登りの好きな義弟(当時29歳)が、ヒマラヤ登山中の7月7日のことでした。置いていったレインコートを、物置の片隅に掛けていたのですが、何気なく見るとコートの襟に、あの一見カビのようにも見えるそれが、まるで冥府からの使者のように、ひっそりと、しかし無気味に咲いていたのです。さすがに、のんびり屋の私も、思わずゾーッとして、バタバタとコートをはたき、濡れタオルでていねいに拭き清めたのでした。
 それから3日たっても、4日たっても、何事もありませんでした。やっぱり迷信だったと、だれにもいわず心を悩ませていた私は、何となく安心して、いつしかそのことを忘れかけていました。

 そんな、7月18日の夜でした。海外からの電話を受けた主人の顔色が変わりました。義弟が、7月7日に雪崩に巻き込まれて、死亡したとの知らせでした。発展途上国の、それも自動車も何も通れない奥地のことなので、生き残った隊員が、10日ばかり歩いて、やっと電話があるところへ着いたということでした。

 私が、現在までに3度、うどんげの華を見て、そのたびに必ず人が死にました。何かの偶然と、簡単に片付けてしまう気には、どうしてもなれません。

 一般的には、うどんげの華が咲くのは吉兆だという解釈と、凶兆だという解釈があるようです。そのどちらが正しいか、などということは私にはわかりません。ただ、私がうどんげの華を見た3度とも、その直後に人が死んだという事実があるだけです。

 それにしても、いったいあの、うどんげの華といわれるクサカゲロウの卵なるものは、本当に人の死を予告するのでしょうか。それとも、死を前にした人が身につけていたものには、その虫の好む何かがあるとでもいうのでしょうか。どうしても不思議です。

 なお、私にはもうひとつ、わからないことがあります。私が3度も見たうどんげの華は、本物だったかどうかということです。他の人はだれも、その3度とも、そんなものは見ていないというのです。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)


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