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歌舞伎町で連続する火災と殺人事件と「落ちる女」たち/吉田悠軌・怪談解題

禁足地や怪奇スポットを取材してきたオカルト探偵・吉田悠軌が、実話怪談の闇に踏み込む。各地で生み出され、語られる怪談の背景とは? 第1回の舞台は「歌舞伎町」。はたして恐怖の根源は解題されるのか?

文=吉田悠軌

怪談一●雑居ビルのトイレのお香

 リエはその夜、歌舞伎町の雑居ビルにある小さなバーで飲んでいた。店内には物腰やわらかい中年マスターがひとり、客も彼女ひとりだけ。
そのうち、ふとトイレにいきたくなったが、口には火をつけたばかりのタバコがある。もちろん普通なら、灰皿に置いて席を立つはずだ。
しかしリエは、タバコをくわえたままトイレに向かってしまった。なぜそうしたのか、自分でもわからない。そのまま用を足し、(はしたないなあ……)と恐縮しながら席に戻っていく。
 しかしマスターは注意するどころか「ああ、ごめん、忘れてた」と謝ってくるではないか。そして自ら、線香タイプのアロマに火をつけて、トイレに置いてきたのである。別にタバコの匂いを消している風でもない。どういうことか質問しようとしたところ、タイミング悪くひとりの女性客が入店してきた。
 それがまた厄介な客だった。
 はじめから泥酔していて、初対面のリエにしつこく絡んでくる。話を聞くに、ハマっているホストとの関係がうまくいかず、イライラしているらしい。つまりはやつ当たりである。
「わたしトイレ行くから!」
 さんざん悪酔いした末、ようやく女が腰を上げた。やれやれ、このタイミングで帰っておこう……と、リエが財布を出しかけていると。
「ちょっと待って」先回りしたマスターが、お香をわざわざ個室から取り出してきた。入れ違いに女がドアを閉める。そして、ほんの数秒後。
 ぎゃあああ!
 すさまじい悲鳴がトイレから響いた。ドアが勢いよく開かれ、青ざめた顔の女が飛び出してくる。「お、お会計、今度払うから」震える声でいい捨てると、女は逃げるように店を出ていったのである。
「見ちゃったんだよ、さかさ女」
 ポカンとするリエに、マスターは説明をはじめた。
 深夜この時刻になると、このビルではある異変が起こるのだという。といってもバーが入っている建物の最奥部分に限られるのだが。
「女がね、まっさかさまに落ちてくるんだ」
 最上階から1階まで、天井も床もすり抜けて、頭を下にした女が落ちてくる。それは昔ここに別のビルが建っていたとき、屋上から飛び降り自殺した女なのだという。つまり過去の記憶とでも呼ぶべき映像が、現在の構造など関係なく、毎晩のように再現されているのだ。もっともその現象は、深夜の時間帯、ビル裏手の壁ぎりぎりで起こるため、他階テナントでも知る人は少ない。
「うちの場合、トイレにあたるところだから迷惑なんだけど」
 それでも対処法はある。線香なりロウソクなり、火のついたものがあるとなぜか、さかさ女は落ちてこないそうだ。
 まあ迷惑な客には、わざと、さっきみたいなことするけどね…… とマスターは微笑んだ。

怪談ニ●部屋をさまよう焦げ臭さの塊

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