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「顔のない地蔵」/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌


顔のない地蔵

徳島県/亀井好幸(54歳)

 徳島市と、甲子園で有名な池田高校のある阿波(あわ)池田を東西に結ぶ国道192号線は、かつては道幅が狭く、徳島本線と並行しているのでやたら踏み切りが多いうえに、ソロバン道とあだ名されるほどひどい道だった。
 交通量が増えるにしたがって道路としての機能を果たし得ない状況となり、十数年の歳月をかけて、レールをまたがない2車線の舗装道路へと改修された。

 四国は、山国である。徳島平野を除けばほとんどが山と川に阻まれたわずかな平地しかなく、そこにしがみつくように人家が点在している。道路を新設するには、吉野川沿いの防水林だった竹林を切りひらいて道路にしたところが多かった。

 この192号線の中間地点よりやや西寄りの1キロほどの一体で、死亡事故が続発したことがある。そのあたりは人家が少なく、かつては火葬場があったり墓地が並んでいたりしたが、ブルドーザーであっという間に整地され消滅してしまった。ドライバーにとっては、清流と四季の移り変わりに彩られる山並みを眺めながらの快適なドライブコースとなっていた。

 ある初冬の朝、暴走族の青年ふたりがパトカーの追跡を受けて100キロを超す猛スピードで逃げる途中、ひとりは線路側の歩道に乗り上げてレールの上に放りだされ、即死。もうひとりは反対側のガードレールを突き破り河原に転落して、これも即死するという事故が起きた。
 それからすぐ後に、道路近くの線路づたいに歩いていた近所の老婆が電車にはねられて即死した。さらに、氷雨の降る早朝、出勤を急ぐ公務員の車がスリップして、対向車線から来た大型トラックに衝突し、救急車で病院に運ばれる途中で死亡した。
 そして、2月の雪がちらつく朝、線路近くに住む家の8歳になる子供が、その日に限っていつもより早く家を出て、ひとりでスクールバスの待ち合い場所に向かったが、岩の出っぱりで見通しの悪くなっている踏み切りをわたろうとして電車にはねられ、即死した。

 これら一連の事故は、すべて初冬から2月ごろまでの短い間に起きたもので、しかも即死のどのケースも必ず首が折れて死んでいる。こんな同じような事故の続発に、近所の人たちが「これは何かあるに違いない」と疑念を抱きはじめたのも自然な感情だろう。

 以前からその土地に住んでいた人たちが中心になって、住人たちがそれぞれ原因究明に動き出した。
 その中に「そういえば、昔、渡し場のあったところに墓や地蔵さんがあったはずが見当たらない」といいだす者がいた。
 さっそく手わけして捜したところ、それらは、ある寺の境内にある墓地の片隅に、まとめて捨てられたように放置されていたのだ。そのうちの、小さな一体の地蔵さんのお顔は、なんとしたことか無残にも欠け落ちていたのだ。
「これだ、これに違いない。捨てられた地蔵さんの祟りに間違いない。事故で死んだ者が、みんな首が折れていたのも、このお顔のない地蔵さんの……」
 村の人々は、互いにそんなふうに話し合った。続発する無残な事故の裏に、きっと何かあるはずだと信じて捜した結果が、墓地の片隅に放置された、顔のない地蔵だった。事故の死者全員、首が折れて死んでいたことも、人々にはその確かな証拠に思われた。

 やがて住人の中から代表が選ばれ、寺の住職に会い、事情を話すことになった。人々から地蔵の話を聞き、これは地蔵さんに非礼なことをしたと悔いた住職は、ただちに新しい地蔵を建立するとともに供養することになった。それから間もなく、寺の下の道路脇に、新しい地蔵尊が祀られることになった。

 今、その地蔵尊は、交通安全を祈念した幟と、草花や供物などに囲まれて、絶え間なく行き交うドライバーたちに慈愛のまなざしを投げかけている。あれから、すでに4年が過ぎようとしている。不思議なことに、あれほど頻発していた国道192号線付近での死亡事故は、それ以来、ただの1件も起きてはいない。
 住職や村の人々の、ていねいで心のこもった供養に、あの顔のない地蔵さんの怒りもおさまったのだろうか? 地蔵信仰など迷信だと笑ってすませてしまうことはたやすいが、私にはとてもそんなことはできない。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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