妖怪補遺々々カフカ護る家

生きては出られぬ家を作る「七つのカフカ」という方法/黒史郎・妖怪補遺々々

ホラー小説家にして屈指の妖怪研究家・黒史郎が、記録には残されながらも人々から“忘れ去られた妖怪”を発掘する、それが「妖怪補遺々々」! 連載第64回は、新年のめでたさからかけ離れた、だれでも作ることができる「生きては出られない家」を補遺々々します。

*旧サイトで掲載していた記事は徐々に再録していきます。

文=黒史郎

命を取る建物

 入ったら生きては出られない、そんな怖い建物があります。
 危険なトラップが仕掛けられているわけでもなく、怪物や無慈悲な番人が待ちうけているわけでもありません。建物自体が危険なのです。

 そして、この殺人建物はだれにでも建てることができてしまいます。
それは高蔵(たかくら)という、稲・麦・粟といった五穀を保存するための蔵です。丸太4本を柱とし、地面よりの1尺ほどの位置に丈夫な貫を渡して7、8尺の高さに床を取りつけ、四方の庇が4尺ほど出るように作られています。

 書くと簡単な造りのようですが、これがなかなか丈夫で、軒端にどんなに重い物を置いても壊れませんし、台風の中でも少々動く程度で倒れることもありません。火事になっても下の貫木を抜き取って、そこに綱をつけて引けば簡単に倒れるので被害を小さくすることもできるという大変優れた構造です。
 なによりこの高蔵、食糧の貯蔵に最適なのです。
「大嶹漫筆」によれば「干物・肴(さかな)など格護すれば虫付き或は腐ると云事なし」とあり、防虫・防腐にも優れていることがわかります。東瓜(冬瓜)、南瓜などを入れてもよく保ち、丸太の柱はよく削られているので最大の害獣ネズミも昇ることができません。

 大切な食料を守りたい……そんな人々の強い想いと知恵で生み出されたこの高蔵、なかには、あまりに「守る力」が強力すぎて危険なものもあります。
 どんなによくできた蔵も外敵の侵入を完全に防ぎきるのは難しいことです。
 しかし、ある工程で作られた高蔵は、スズメやネズミなどが侵入しても、貯蔵物はひと口も食べられることがありません。それどころか、スズメもネズミも蔵の中で干からびたミイラ状態で死んでしまいます。
 死ぬのは小動物だけではありません。この蔵に入り込んだものは、人間でさえも命を失うことがあるのです。

完璧は危険

 奄美地方には「カフカ」という言葉があります。
 これは、「建物の中で生物が育たない日」を意味します。
 蔵に入り込んだネズミが貯蔵した五穀を食べ、子を産んで増えたら大変です。そんな害獣・外敵から大切な食料を守るため、高蔵をカフカの日に建てたといいます。
 といっても、1日のカフカで蔵を建ててしまうわけではありません。
 それぞれの工程に取り掛かるタイミングをカフカの日にして、カフカの力を増やすことで効力を高めたのです。
 最適なのは4日か5日ほどかけて建てたもので、ネズミなどの小動物からしっかりと貯蔵物を守ってくれます。もちろん、すべての日がカフカである必要があります。

 しかし、何事にも限度というものがあります。すべての工程をカフカの日に合わせてはいけません。
 建造に必要な材料を得るために初めて山へ入る日、切り出した材木を山から運びはじめる日、高蔵の土台を作りはじめる日、柱を立てる日、棟を上がる日、屋根を葺く日、高蔵を完成させる日。
 この7つの工程のすべてをカフカの日にやれば完璧な高蔵は完成しますが、その力が強すぎてネズミやスズメのみならず、人の命さえも奪ってしまうとても危険な高蔵となってしまうのです。
 蔵の所有者であったとしても効果は発揮されてしまい、命まで失わずとも、蔵から転落して大怪我をするといった災難が起こるとされています。
そのため、住居を建てるときはカフカの日を避けて作ったそうです。
「7つのカフカ」に護られた高蔵ーーそれは立ち入った者をことごとく排除する、最強で最凶の建造物なのです。

 カフカの日を以下に記しておきますので、これから家を建てるという方はぜひとも参考にしてください。

正月丙丁 二月丙丁 三月己戌 四月己戌 五月己戌
六月甲乙 七月甲乙 八月甲乙 九月庚辛 十月庚辛 十一月庚辛 十二月丙丁


<参考資料>
名越左源太『南島雑話 1 幕末奄美民俗誌』

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