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伝説の巨大建造物は古代メソポタミアのジッグラトか? 「バベルの塔」の真実/世界ミステリー入門

天にも届くような巨大な塔を築いた人間たちは、神の怒りを買い、互いに言葉が通じないようにされ、世界各地へ散らばっていった――。
『旧約聖書』の中でも有名なバベルの塔の物語だが、実はこの巨塔は、かつて実在したものだという。物語に隠されたバベルの塔の真実とは?

文=中村友紀

天に届く巨塔を築き神に罰せられた人間

 読者は、バベルの塔の話をご存じだろう。
『旧約聖書』「創世記」で、ノアの大洪水のあとに登場する、天にも届くような巨大な塔を築こうとした人々の物語だ。
 少々長くなるが、まずは「創世記」から、その部分を読んでみることにしよう。
「全地は同じ発音、同じ言葉であった。時に人々は東に移り、シナルの地に平野を得て、そこに住んだ。彼らは互に言った、『さあ、れんがを造って、よく焼こう』。
 こうして彼らは石の代りに、れんがを得、しっくいの代りに、アスファルトを得た。
 彼らはまた言った、『さあ、町と塔とを建てて、その頂を天に届かせよう。そしてわれわれは名を上げて、全地のおもてに散るのを免れよう』。
 時に主は下って、人の子たちの建てる町と塔とを見て、言われた、『民はひとつで、みな同じ言葉である。彼らはすでにこの事をしはじめた。彼らがしようとする事は、もはや何事もとどめ得ないであろう。さあ、われわれは下って行って、そこで彼らの言葉を乱し、互に言葉が通じないようにしよう』。
 こうして主が彼らをそこから全地のおもてに散らされたので、彼らは町を建てるのをやめた。
 これによってその町の名はバベルと呼ばれた。主がそこで全地の言葉を乱されたからである。主はそこから彼らを全地のおもてに散らされた」(「創世記」第11章1~9節)

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天まで届く塔を建てようとした人間たちに怒りを覚えた神は、大嵐と雷で塔を吹き飛ばし、彼らに別々の言語を与えて、世界各地へ離散させた(ギュスターヴ・ドレ画)。

 この文章を素直に読めば、おおよそ次のように解釈できる。
 昔、すべての人々は同じ言葉を話していた。あるとき彼らは煉瓦を焼き、それで巨大な町と塔をつくり、頂を天に届かせることで、全国に散るのを免れようと試みた。
 だが、それを見た神は、民が同じ言葉を話すがゆえにこのようなことを始めたのだと思い、互いに言葉が通じないようにしてしまった。すると人々は協力して町をつくるのをやめ、世界各地に散っていった――。
 ちなみに、「これによってその町の名はバベルと呼ばれた」とあるが、この「バベル」はヘブライ語の「ごちゃまぜ」もしくは「混乱」を意味する言葉からきている、という説もある。
 一般にバベルの塔の物語は、世界にさまざまな言葉が存在することの説明だと理解されている。それによって、世界は「ごちゃまぜ」になったのだ、と。
 だが、どうも話はそう単純ではないようだ。


神話の舞台はバビロンだった

 バベルの塔の物語は、かなり神話的であり、寓話的だ。
 もちろん『旧約聖書』「創世記」は、世界の創世から始まる壮大なストーリーだから、神話的であって当然である。だが、だからといって物語が、必ずしも架空の土地を舞台にしているというわけではない。
 たとえばアダムとイブが追放されたエデンの園は――もちろんさまざまな候補地があるとはいうものの――ティグリス・ユーフラテス河の周辺であるという説が有力だ。また、この両大河の上流近くには、ノアの箱舟が漂着したとされるトルコのアララト山もある。
 そもそもメソポタミア地方で栄えたシュメール神話と、『旧約聖書』に書かれた神話的部分がきわめてよく似ているというのは、古くから指摘されているところだ。
 一例として、ノアの大洪水を見てみよう。
『ギルガメシュ叙事詩』という古代シュメールの神話がある。これは、粘土板に刻まれた断片として発見された古代シュメールの神話物語だ。なかなか翻訳が進んでいなかったのだが、1970年代になって、そのうちの1枚を大英博物館の修復員が解読したところ、「創世記」のノアの大洪水と酷似したストーリーが書かれていたということで大騒ぎになった。
 内容を要約してみよう。
「その昔、ウトナピシュティムはエア神の指示で船を作り、自分と家族、船大工、そしてすべての動物を乗せた。
 すると6日間の嵐が襲い、地上の人々はみな粘土になってしまった。
 ウトナピシュティムの船はやがて、ニシル山の頂上に漂着する。そして漂着から7日目、彼は水が引いたことを確認するために、順番にハト、ツバメ、カラスを放った。
 こうして安全を確認したウトナピシュティムは、船から乗船者を降ろすと、神々に生け贄を捧げる。するとその匂いにつられて、船のまわりには多くの神が集ってきた」

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巨大な箱舟にあらゆる動物のつがいを乗せて、神が起こした大洪水から免れたノアとその家族は、アララト山に漂着した(ギュスターヴ・ドレ画)。

 紙幅の都合もあるので、ノアの大洪水の詳細については触れないが、本誌読者ならふたつの物語が細部に至るまでそっくりであることにお気づきだろう。
 このように、「創世記」はきわめて強く、メソポタミア地方の文化的影響を受けている。
 というより、メソポタミア地方は、まぎれもなく『旧約聖書』の、それも「創世記」の舞台そのものなのである。
 だとすれば当然、バベルの塔も、メソポタミア地方にあったと考えるべきだろう。
 結論からいえば「バベル」とは、メソポタミア地方に栄えた巨大帝国バビロニアの首都、バビロンのことである。場所は現在のイラクのバグダッド南方。紀元前3000年の記録にはすでに登場する古い都だ。
 ちなみに「バビロン」はアッカド語(古代メソポタミアの言語)で「神の門」を意味している。これも「創世記」の解釈とは違うところだ。
 ただし「創世記」の記述には「バベルの塔」という言葉は登場しない。
 書かれているのは、塔の建設をやめたあとで、その町が「バベル」と呼ばれた、ということだけである。そこには、名前や存在をあえて隠したような気配さえある。
 これはいったいどういうことなのだろうか。

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バビロニアの首都バビロンの想像図。都の中にひときわ高くそびえているのがバベルの塔だ。


バベルの塔の正体は巨大神殿ジッグラト

 古代メソポタミアでは、各地で巨大な塔が建設されていた。現存するだけでもその数、およそ30基以上。もちろん、バビロンも例外ではない。
 この塔は「ジッグラト」と呼ばれる。ジッグラトとは「高いところ」という意味だから、まさしくそのままの名称だ。
 ただし、いずれも塔というよりは小山のようなもので、なかには高さ90メートルに達するものもあったという。
 比較的保存状態がいいウルのジッグラトは紀元前2100年ごろにつくられたもので、第1層の底面が62.5×43メートル、高さ11メートル。第2層の底面
が38.2×26.4メートル、高さ5.7メートル。第3層が失われており、正面には失われた第3層まで伸びていたはずの階段がまっすぐに組まれている。
 まるでエジプトのピラミッドのようにも思えるが、基本構造はまったく違う。
 ピラミッドは切りだした巨石を積み重ねたもので、内部には複数の部屋があり、そのための入り口も存在する。
 一方、ジッグラトは固めた膨大な量の土を日乾(ひぼし)煉瓦で囲い、いくつかの階層を積みあげる、という手法でつくられている。したがって、内部に部屋はなく、土が詰まった状態だ。
 ただし階層の頂上には神殿がつくられており、ここは「神が訪れる場所」だったと考えられている。つまりジッグラトは、神が降臨するための、都市のなかにつくられた巨大な「山」なのだ。
 しかも日乾煉瓦はもろいので風化しやすく、土に戻りやすい。そのため、廃墟となったジッグラトは簡単に自然の丘に戻る。その意味でもまさに「山」なのである。
 そしてバビロニアの首都であるバビロンにも、かつて巨大なジッグラトがそびえていた。これこそ、バベルの塔の正体なのである。つまり、バベルの塔はまぎれもなく存在していたのだ。
 実際、ジッグラトとバベルの塔には共通項がある、という指摘もある。
「紀元前7世紀末の王室碑文によると、マルドゥク神は、あるバビロニア王にエサギラ神殿の修復を命じ、神殿の土台を冥界の奥深く堅く定め、その頂を天と等しくするよう要求した。これらの文章は、エサギラ神殿がバベルの塔物語の『頂を天に置く塔』と同様のコンセプトで建設、修復されたことを物語っている」(『聖書を読み解く』石田友雄/草思社)というのだ。
 少し説明をすると、マルドゥク神というのは、古代メソポタミアの神話に登場するバビロンの都市神であり、バビロニアの国家神のことだ。エサギラ神殿はそのマルドゥク神を祀る神殿で、中心部には紀元前6世紀前半にネブカドネザル2世によって完成をみた、巨大なジッグラトが築かれていた。
 その名を「エ・テメン・アン・キ」という。これこそが、バベルの塔なのである。
 それもそのはず、エ・テメン・アン・キは、底面が約91メートル×約91メートもあり、高さも約90メートルという超巨大なジッグラトで、しかも7層建てになっていた。
 なお、これは考古学者による推定値であり、古代ギリシアの歴史家ヘロドトスの記録によれば、もっと大きい。なにしろ基底部は1辺が185メートル、高さも同じく185メートルもあったというのだ。
 いずれにしても、当時の常識からすれば、とんでもない高層建築である。神の住まう天を目指して建てられたもの、と認識されたとして、なんの不思議もないだろう。

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古代シュメールの中心都市ウルに築かれたジッグラト。日乾(ひぼし)煉瓦を積みあげてつくられたもので、内部に部屋などはない


『旧約聖書』に異民族の塔が登場する理由とは?

 バベルの塔は実在していた。それはバビロンの巨大神殿にあるジッグラトだった。
 では――。
 ならば、この巨大ジッグラトが異教徒であるユダヤ人の『旧約聖書』「創世記」に、「バベルの塔」として取り入れられたのはなぜなのだろう。
 おそらくそこには、「バビロン捕囚」という重大事件が関わっていると思われる。
 バビロン捕囚は、紀元前6世紀後半、エルサレムを滅ぼしたネブカドネザル2世が、生き残ったイスラエル人をバビロニア地方へ捕虜として連行・移住させたものだ。
 長期にわたるバビロンでの捕囚生活は、のちのユダヤ人としてのアイデンティティ形成に、きわめて大きな影響を与えたといわれている。
 捕囚されたユダヤ人は、バビロンでこの巨大ジッグラトの建設作業にかりだされ、あまりにも壮大な姿を目の当たりにしていたはずである。
 また、時が流れ、崩れ去って巨大な土の山となったジッグラトの残骸を見て、かつての姿に思いを馳せたこともあるかもしれない。
 それに加え、ジッグラトはバビロニアの象徴でもあったわけだから、のちの『聖書』編纂者が強く意識したとしてもなんの不思議もないだろう。
 だが――。
「捕囚」という屈辱的な過去をもつ彼らにとって、バビロニアはとうてい許すことのできない敵国である。当然、ジッグラトに対しても、好意的な解釈など生まれてこようはずもない。
 そのため「創世記」に取り込まれたジッグラトは、神を降ろすための巨大神殿という本来の性格は消し去られ、まったく違う意味合いのものにされた。
「『さあ、町と塔とを建てて、その頂を天に届かせよう。そしてわれわれは名を上げて、全地のおもてに散るのを免れよう』」
――彼らが力を誇示し、名声を得るための愚かな道具として描かれたのだ。
 もちろんそれは、神の御心にはまったくもってそぐわないものだ。だから、神の罰を受け、計画は頓挫したのだ、と。
 バベルの塔には、そんな思想的・政治的な背景も見え隠れしている。だが、そこにはもっと深い意味もあるようだ。
 そもそも「創世記」におけるバベルの塔の物語は、あまりにも唐突に登場する。
 最初に、この話はノアの大洪水の物語の次、と書いたが、厳密にいうと少し違う。
「創世記」の記述に従えば、箱舟に乗って大洪水を免れたのは、ノアと彼の3人の息子、すなわちセム、ハム、ヤフェトだけだった。したがって全世界の人々は皆、この3人の息子たちから分かれでた民族の末裔なのだと「創世記」は語る。
 つまり「創世記」では、ノアの3人の息子から異なる言語を扱う民族が生まれ、世界各地に分かれて繁栄する、という説明が入っているのだ。
 にもかかわらず、その後にいきなり、バベルの塔の物語が挿入されてくる。
「全地は同じ発音、同じ言葉であった。時に人々は東に移り、シナルの地に平野を得て、そこに住んだ」
 世界に散ったはずなのに、再び「同じ発音、同じ言葉」の人々が登場するのだから、この記述は、流れとしてはいかにも不自然なのである。
 ところがよく注意してみると、この物語はそれまでのノアの息子たちの子孫の話ではなく、「シナルの地に平野を得て、そこに住んだ」民族の物語であることに気づく。
 要するに、ユダヤ人について書かれている『旧約聖書』のなかに、唐突に、異民族であるバビロニアの物語が放りこまれているのだ。なぜ、そんなことをしたのだろうか。
 考えられるとしたら、次のような理由だろう。バビロンはメソポタミアにおける、当時としては最大の都市だった。もちろん、経済的にも繁栄し、多くの人口を抱えていた。
 そうなれば、周辺国家からも多くの人が集まってくる。さまざまな民族が入り交じり、異なった言葉が飛び交うにぎやかな国際都市だったはずだ。
 にもかかわらず、彼らが「同じ発音、同じ言葉」だったのはなぜなのか。
 それは、バビロニアの言語が、現在でいう英語のような、一種の共通語として使用されていたからだろう。
 ひとつの巨大な国家のひとつの言語で、周辺の小国家の言語を統一する――それがジッグラトをつくった人々、バビロンの現実だった。
 だが、捕囚としてこの巨大都市で暮らすことを余儀なくされたユダヤ人は、それを認めようとはしなかった。
 その結果――。
「創世記」の編纂者は、バベルの塔の物語によって、そうした巨大国家による覇権主義を、明確に否定したのだ。
 そして同時にそれは、「選ばれた民」であるべきユダヤ教の本質を強化することにもなったはずである。
 このように「創世記」に記されたバベルの塔の物語は、当時の国際情勢の描写であり、それに対するユダヤ教からの否定だったのである。それこそがまさに、この物語に隠された本当の意味なのだ。


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