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「古ミシン」/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

古ミシン

奈良県/岡田英之(17歳)

 ぼくが、10歳くらいのころです。
 そのころ、ぼくの家は西宮にありました。静かな住宅街で夜になると気味が悪いほどでした。
その夜も、静かな夜で、ぼくはなかなか寝付けずに、ベッドに入ったままいつまでもモゾモゾとしていました。月が、やけに青く光っていたのが、今でもはっきりと思い出せます。昔の記憶ですからやや大げさになっているのかもしれませんが、窓からさしこむ月の光で、部屋の中が真っ青になっていたように思います。
 しばらくして、ぼくはトイレに行くために起き出しました。
 トイレは1階にあり、ぼくの部屋は2階でした。階段を下り、用を足し終え、自分の部屋にもどろうとしたぼくは、何気なくトイレから続く廊下の奥にひょいと目をやりました。
そこには、足踏み式のミシンが置いてあり、母は電子ミシンを使っているので今ではそれは半ば廃物でした。その古いミシンが目に入った瞬間のことです。ふと、だれかがその前に座っているような気がしたのです。
 一瞬、目の錯覚だと思いました。それで、目をこすってからもういちどよく見直しました。ところが、まちがいなくだれかが……女の人が、そこに座っているのです。しかもぼくが見た瞬間、その女の人はミシンをガタンガタン、ガタタンと作動させ始めたのです。手は使わず両側にだらんとたらしたまま、足だけをいそがしく動かしてミシンを回しているのです。
 ぼくは、金縛りにあったように身動きもできず、その様子をただ見つめていました。女の人は、時おりクスクス笑います。髪を短く切った、まだ若い、青白い顔の人でした。ぼくにはまったく見覚えがありません。
 だれかが、ぼくの知らないうちに泊まりに来ていて、その人がミシンをいじっているのかとも考えました。あるいはドロボウが、とも思いました。それにしては、様子が変です。もしかしたら、どこかの頭のおかしい人が……と思った、その瞬間でした。ふいに、女の人がこちらを向いたのです。
 そのとたん、ぼくは思わず腰が抜けそうになるほど驚いてしまいました。何と彼女には、目が両方ともなかったのです! 目のあるべきところには、ただのっぺりとした青い皮膚があるばかりでした。
 そして彼女は、ぼくに笑いかけながら、いきなり立って、こちらへ来ようとしたのです。ぼくは思わず震えあがり、後ろも見ずに階段をかけ上ると、自分の部屋に入ってふとんをかぶり、そのまま、まんじりともせず朝を迎えました。ドタドタという、ぼくを追いかけてくる足音を聞いたような気がしたのですが、朝までは何事もありませんでした。
 翌朝、母が起き出した気配に安心して階下に下りて行き、すぐに廊下の奥の古ミシンをみました。するとミシンには、茶色の糸がめちゃくちゃに絡まっていたのです。母は、だれかのイタズラだといって怒っていましたが、ぼくは、何もいえませんでした。

(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)


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